The End of the Groove

1ヶ月半前、僕はスタートアップを辞めた。 自分がほぼ0から関わっていた会社で、フルタイムとして働いていた。 経済的なリターンも見えていたし、労働環境も悪くなかった。 でも、どうしても同じ場所には戻れないと思った。

その理由が何なのか、最初は自分でも分からなかった。 身体的・精神的な疲労はあったと思う。 だけど、それ以上に、自分の中の「何か」が壊れた。

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最近になってようやく気づいた。 人間は「共同幻想」で動く生き物なんだ。

これはユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』で書かれていたことだけど、 人間だけが"幻想を共有できる"という。 国家も、宗教も、企業も、その幻想の上に成り立っている。

僕がスタートアップで走れていた理由も、それだった。 金銭的な報酬ではなく、みんなで何かを成し遂げられるという幻想。 「このチームならいける」とか、「この事業が社会を変える」とか、 その"物語"が僕を動かしていた。

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でも、体調を崩して立ち止まったとき、 ふと気づいてしまった。 それは幻想だったんだ、と。

もちろん、幻想が悪いわけじゃない。 むしろ人間は幻想がなければ動けない。 だけど、一度それが幻想だと理解してしまうと、 もう同じグルーヴでは走れなくなる。

それに気づいてから、僕は前のように働けなくなった。 燃え尽きたというより、 「現実に戻ってしまった」という感覚のほうが近い。

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この出来事は、働き方というより、生き方の問題なんだと思う。 僕らは多かれ少なかれ、誰かと共有する物語の中で動いている。 でも、その物語が"自分のものではない"と気づいたとき、 人はそこで止まるしかない。

もしかしたら、今の時代に増えている「働けない」「やる気が出ない」という現象は、 単なるメンタルの問題ではなく、 幻想に気づいてしまった人間たちの自然な反応なのかもしれない。

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だからこそ、これからの生き方として、 僕は"手仕事"のような方向に戻っていこうと思う。 幻想ではなく、手の感覚で確かめられるもの。 それがコードであっても、木工でも、土でもいい。 目の前に確かに「ある」ものに触れて、 もう一度、現実を取り戻していきたいと思う。

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