最近、自分でも少し頭がおかしくなりそうだった。 チームの売り上げは急成長し、メンバーも一気に増えた。 僕はその会社の一人目のエンジニアで、採用にも関わり、 リリースサイクルを整え、仕組みを作ってきた。 順調だった。数字だけを見れば。
でも一番堪えたのは、自分が採用した人の契約を切る判断をしたときだ。
かつてファンドにいた頃、リーマンショック後の再生案件を担当した。 150 人いた従業員を、7 人まで減らす。 父親と同じくらいの年齢の人たちに「明日から来なくていい」と伝えた。 あの経験で、もう二度と人の雇用を切る仕事はしたくないと思っていた。 でも、また同じことをやっている。
「資本主義だから仕方ない」 それは正しい。 景気が悪くなれば、事業が傾けば、 株主の意向を受けて、人が減る。 経済の構造としては当然だ。 でも現場にいると、それは「仕方ない」では済まない。
エンジニアという職業は、もともと人と距離をとることで成立していた。 コミュニケーションよりも、思考と作業に集中する仕事。 そんな場所で、人を切る判断を下すのは、 誰にとっても不自然だし、酷だと思う。
AI を使いこなせない人。 スピードが足りない人。 効率が低いとされた人。 そういう人たちをリストから外していく。 頭では理解していても、心がどんどん壊れていく感覚があった。
国籍の問題でもない。 欧米人でも、中国人でも、日本人でも、 人を切るときの胸の重さは同じだと思う。 違うのは、それを表に出すかどうかだけだ。
スタートアップでは、 ときにエンジニア自身がこの「調整弁」の役割を担う。 効率と資本の板挟みになる。 そしてその先に残るのは、 静かな罪悪感と、壊れかけた自己肯定感だ。
この構造の中では、たぶん誰も幸せになれない。 成長と引き換えに、どこかで人間が削られていく。 資本主義の中のエンジニアは、 効率の連鎖と同じ速度で、不幸も連鎖させている気がする。