「996 文化」という言葉がある。 朝 9 時から夜 9 時まで、週 6 日働く——そんな働き方を理想とする文化のことだ。 シリコンバレーの一部でも、似たようなスピリットが残っている。 だがそれは、AI の目的と真っ向から矛盾しているように思う。
AI の約束は、本来「人間を労働から解放する」ことだったはずだ。 10 の成果を出すために 10 働いていた人が、 AI の助けで 1 働けば同じ成果が出る——そんな未来の話だった。 なのに今は、10 働いたまま 150 の成果を求められる。 AI が加速させたのは、人間の呼吸ではなく回転速度だった。
報酬や将来の資産を夢見る若者たちを責める気はない。 挑戦は美しい。 ただ、その働き方がすべての人にリターンを約束するわけではない。 実際、僕も以前、不動産ファンドにいた頃は「6・12・7」だった。 朝 6 時から夜 12 時まで、週 7 で働く。 高い給料はもらっていたが、ほとんどの仲間はやめていった。 健康を崩し、次の道が保証されているわけでもなかった。
それでも同じ構造が、IT スタートアップにも根を張りつつある。 誰もが成功者になれるわけではない。 でも、失敗した人に「自己責任」で片づける社会では、 このシステムはどこかで破綻する。
AI が生んだのは不具合ではない。 AI を使う人間が、生産性を神のように崇めた結果の**構造的バグ**だ。 そして、その修正パッチは人間が書くしかない。 セーフティーネット——精神的にも、物質的にも—— それを整えることが、本当の意味での「アップデート」なんだと思う。