サービスの過剰とAIの罠

2025/10/7

日本に来たことがある人はわかると思う。 この国には、驚くほどサービス精神がある。 頼んでもいないのに、過剰なほどの付加価値をつけようとする。

お土産を買えば一つずつ丁寧に包まれ、 荷物を受け取るときも、必ず人と人で手渡し。 それが「日本らしさ」だとよく言われる。 でもこれは、**人間の疲弊と表裏一体**だ。

もともとこの働き方は、右肩上がりの経済成長を前提にしていた。 お客様が喜べば、給与も上がる。 努力すれば報われる——そんな時代のサービスモデルだった。 けれど、経済が30年停滞した今、 「付加価値をつける文化」だけが取り残された。 結果として、報われない親切だけが社会に残った。

そして今、その構造がIT業界にも戻ってきている。 スタートアップもSaaSも、競争が激化し、 サービスレベルを無限に高める方向に進んでいる。 利益率が下がるたびに、 「もっとパーソナライズを」「もっと丁寧に」という付加価値競争に陥る。

パランティアが提唱した「Forward Deployed Engineer(FDE)」という概念が象徴的だ。 顧客の現場に入り込み、AIをカスタマイズして成果を出す。 それは高付加価値であり、同時に超過酷労働でもある。

僕自身、似たような仕事をしていて、その強度に驚いた。 頭脳だけではなく、 現場感覚、体力、そして異常な集中力が求められる。 まるで24時間オンラインのコンサルタントであり、 同時にエンジニアであり、セラピストでもあるような仕事だった。

AIによって効率化されたはずの世界で、 人間だけがより高強度のサービスを求められている。 これは「日本的サービス精神」のAI版かもしれない。 お客様が望む前に、すべてを先読みして提供する。 でもその未来には、やはり同じ構造がある。 ——過剰なサービスは、やがて人を壊す。

だからこそ、これからのサービス開発は、 「どこまでやらないか」を設計することが CTOやCEOの重要な仕事になると思う。

AIがあらゆるものを最適化できる時代に、 必要なのは“やりすぎない勇気”だ。

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